棋書というより奇書と言った方が相応しい時代が生んだ悪ふざけ本
本書が発売されたのは1996年、つまり羽生フィーバーの真っ只中である
七冠を獲得し、その後、棋聖を三浦に奪われたが依然六冠王として君臨していた時代
この絶好の商機をあの田中寅彦が逃すはずが無い
本書の表紙に記載されている田中の肩書は「九段、対羽生勝率八割」
九段の棋士は少ないながらも何人かいるが、それよりも何倍もインパクトがあるのは「対羽生勝率八割」
当時の羽生の通算勝率は.759である
そんな中、対羽生八割(たった5戦のサンプルで4勝1敗と言うことは置いといて)なのだから
有頂天で本の1冊も出したくなる気持ちも理解できよう
本書は「とんでもなく強い羽生にどうやって勝つか?」がテーマ
そのため田中は羽生の数少ない敗局にターゲットを絞って分析して、羽生必敗の法則を導き出している
それなりに頷けるものもあるが、やはり印象に残るのはオカルト的なしょうもない法則である
対局者の血液型、星座(O型・山羊&水瓶座が苦手)はありがちだが、
当時よく比較されていたイチロー所属するオリックスの勝敗、
羽生の出身地が埼玉なので浦和レッズの福田正博選手がゴールした日など
こじつけにしても時代を感じるとともに「よく調べたな」と感心する
最終的には駒に鼻糞を付ければ羽生は駒を取れずに時間を消費するといった
極めてエキセントリックな提案までしている
少なくともイチロー所属球団の勝敗は羽生の将棋には影響していないと断言できる
何故ならマリナーズが連戦連敗を続けていた時代も羽生は勝ちまくっていたからだ
そう、本書には「時の流れ」がもたらしてくれる楽しみがある
発売当時から20年が経ち、法則の「答え合わせ」をすることが出来るのだ
羽生が当時苦手とされているのは以下の通り
ちなみに苦手と言ってもほとんど勝率6割以上はある
ただ勝率7割以上の男にとって6割は十分「苦手」の範疇である
それでは答え合わせをしてみよう(続く1/3)
数字は全て15年1月1日現在のもので、全公式戦の通算勝率は.722
●角換わり腰掛け銀が苦手
⇒腰掛け銀も含めた角換わりの勝率は.683・・
う~む・・7割を超える矢倉や横歩取りと比較すれば苦手なのだろうか・・・
●対局場が寒冷地や外国だと勝率が落ちる
⇒地方なのでタイトル戦に限ると羽生の全タイトル戦通算勝率は.646
北海道+東北6県+北陸4県を合わせた寒冷地での勝率は.669と悪くない
特に将棋の町天童市のある山形県での勝率は7割を超える
海外対局は5勝5敗の5割と対局数が少ないので何とも言えないが今のところ苦手と言って良いかもしれない
●関西所属棋士に弱い
⇒データは無いがこれは部分的には当たっているかもしれない
勝率を対関東と対関西で出せば、対関西の方が悪いだろう
ただ単にライバル谷川(102勝62敗.622)との対局数が多いと言うだけだが・・・
その他対局数の多い関西棋士は久保利明42勝17敗.712 山崎隆之17勝2敗.895
唯一健闘が光るのは村山聖の8勝6敗.571 もっと見たかった組み合わせである・・・
●千日手指し直し後に弱い⇒こちらは具体的なデータは無いので不明
●1分将棋に弱い⇒噴飯もの!早指し棋戦の実績を並べれば良いだろう
NHK杯優勝10回(歴代1位) 銀河戦優勝7回(歴代1位) JT日本シリーズ優勝6回(歴代2位) 朝日杯オープン優勝3回(歴代1位)
また、当時羽生が苦手としている棋士としては以下が挙げられている
井上慶太 当時3勝3敗 .500 → 15年1月1日現在 12勝4敗 .750
三浦弘行 当時5勝3敗 .625 → 15年1月1日現在 29勝8敗 .784
加藤一二三当時7勝5敗 .583 → 15年1月1日現在 14勝6敗 .700
田中寅彦 当時1勝4敗 .200 → 15年1月1日現在 5勝4敗 .555 (続く2/3)
もちろん羽生から見ての勝敗だ
見事に枕を並べて討ち死にである
井上、三浦、加藤ともに対局を重ねるごとに羽生の通算勝率.722に収束している
この中でもっとも悲惨なのが著者でもある田中寅彦だろう
初対戦から対羽生4連勝、1つ星を返されて1-4となったところが本書の発売時点
その後さらに4連敗して、結局羽生から見て5勝4敗で打ち止め
そう、三浦のようにコテンパンにやられていないのは、
各棋戦で田中が羽生と戦うまで上がることすらできなくなったからだ
ちなみに田中が最後に羽生と対局したのは2001年のA級順位戦
おそらくこのまま彼は「対羽生勝率.444」と言う
「お、割と互角にやってるやん」と言う印象を持たれる戦績のまま現役を終えるのだろう
当時としても「アホラシ」で一蹴されたであろう本書
そんな中で少しだけ感心したのが最終章の妄想小説
田中寅彦が開発したアンドロイドXと言うコンピューターが羽生を倒す物語
発売当時の将棋ソフトなどプロの足元にも及ばず、
プロ棋士がソフトに負ける日など永遠に来ないと思っていた人も少なくなかった
そんな時代にこのアイデアは時代を先取りしている
しかも単なる将棋ソフトではなく、アンドロイドである
このアンドロイドは盤上だけでなく、
盤外戦術まで駆使して来る(もちろんちゃんと駒に鼻糞もつけるし、念力で振り駒を操り先手を取る)
現代の将棋ソフトの2歩も3歩も先を行っているのだ
全体的に見れば罪の無い、しかし、恐ろしくしょうもない本なのだが、
年月と言う審査に十分耐えうる、羽生の本質を捕えている記述もある
それは羽生の相手に合わせることのできる柔軟性と洞察力である
もともとどんな戦型も苦にしないオールラウンダーであり、
また戦えば戦うほど相手の特徴を把握し、場合によっては自分の将棋にも取り入れる
対局者にとって羽生は捕えどころの無い研究しづらい相手であり、
逆に数局戦えばこちらの特徴を把握されるとんでもない相手なのだ
番勝負でも番数が深まれば深まるほど強くなって行く、
まさに戦いの中で成長する少年漫画の主人公のようだ
本書が発売されて以降、この20年で将棋界は大きく変わった
変わって無いのはただ1つ・・・羽生善治が勝ち続けていることだけだ(終わり3/3)
6連敗 谷川浩司 渡辺明
5連敗 森内俊之
4連敗 米長邦雄 ★田中寅彦★ 谷川浩司×2 村山聖 佐藤康光 森内俊之
62敗 谷川浩司
58敗 森内俊之
53敗 佐藤康光
31敗 渡辺明
29敗 深浦康市
24敗 郷田真隆
19敗 丸山忠久
17敗 久保利明
15敗 藤井猛
14敗 森下卓
11敗 木村一基
10敗 中原誠、米長邦雄、島朗
08敗 三浦弘行
06敗 南芳一、加藤一二三、村山聖
04敗 井上慶太、阿部隆、広瀬章人、日浦市郎、豊島将之、糸谷哲郎、田中寅彦
佐々木慎、勝又、所司、藤倉、堀口一、大平
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他のメンツ見ても場違い感が
七冠の年でNHK三回目、早指しでも2回優勝してるんだから、流石にこの事実を無視はしないんじゃないかと。
長時間の対局で一分将棋になるってのは、有利でも僅差か非勢の時が多いだろうから、通算と比較してなら勝率下がるのが当然だけども。
会話がかみ合わないってよく言われない?
「やってりゃよかった苦悶式」の人か。
その時点では苦手だったんだろっていうのがいくつかあるな
って、そりゃ当たり前だろ
タイトル戦って事なんだから
その後、怒涛の15連敗食らったが
三浦しかり、藤井しかり。
ナベ2冠はどうなることやら
ナベはその点凄いな。まあ、世代がずれてたってのもあるけど
ある程度羽生さんと戦って、対戦成績互角って彼だけだろ?
ナベは大した事ないってレスよく見るけど、彼もまた一流と思う
羽生に5勝したら八段昇段(A級と同意)規定作ろう
羽生と比較されるクマーw
レビューだけで満足しちゃったけどw
またこの手の投下はしてほしいね
よく見るのかw
まともな将棋好きなら、渡辺二冠を一流だと思わない人はいないと思うけど
この表現に噴いた
これが今も通じる一番の法則だろ
渡辺の実績で過小評価されてるの早指し棋戦だよな
銀河戦なんて今のペースなら羽生超えるで
確かにもっと見たかった組み合わせ。
つくづく惜しい人を亡くしたもんだと思う
しかも最後の対局は村山が病の影響で大ファンタやらかしたあのNHK杯決勝だからな
「羽生が最も恐れた男」と呼ばれたのは伊達じゃない
将棋にのめり込むことが出来た、という側面もあるかもしれないしね
難しいところではあるが、もっと対局を見たかったという点は同意
お前らこういうのには厳しいんだな
なんでも公文公本人に習ったとか
もっと多くやっているイメージだったし
4戦して平均3勝、標準偏差は0.6くらいなので、1勝3敗程度なら発生しない方が不自然
0勝4敗が発生する確率も、去年起こった封じ手の呪いに比べればずっと現実的な確率の範囲
戦績に棋士の過去の環境まで加味して強さを測るのは難しいというか無意味だな
何を言っても想像の域を出ない
たかが4勝1敗で勝率8割とか言っちゃうとかさすが2流だなw
勝率1位賞を何回も獲ってるし、
何せ数少ないC2→Aまで4期連続昇級者の一人だからな
その後はA級とB1を行ったり来たりしていたが…
定跡の整備にも一役も二役も買ってる
なおそれを考慮しても(ry